ミノア文明 ミケーネ文明 印刷書籍

著者:大久保栄次
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大久保栄次著 印刷書籍・電子書籍
エーゲ海ミノア文明・ミケーネ文明の遺産 遺跡と出土品詳細データ

ミノア文明&ミケーネ文明 金製シグネットリング
印刷書籍: ミノア文明&ミケーネ文明 金製シグネットリング

・サブタイトル: 出土品の精密イラスト画、表現モチーフの「物語」を読み解く
・表記: 日本語
・形式: ペーパーバック
・印刷: 光沢なし最上質紙 高鮮明度プレミアムインキ
・サイズ: B5版 243ページ 厚さ1.5cm
・販売: Amazonネットワーク/Amazon.co.jp

内容概要

 本書は日本語表記、B5版・240ページ、エーゲ海の先史ミノア文明とミケーネ文明遺跡から発掘された出土品の「精密イラスト画&データブック」です。
 本書はクレタ島のクノッソス宮殿遺跡を初めミノア文明の他の遺跡、そしてギリシア本土のミケーネ宮殿遺跡を初めミケーネ文明の重要遺跡からの主要出土品の内、一際優れた「金製シグネットリング46点」をピックアップして、それらの印面に表現されたモチーフの「物語」を読み解きます。
 加えて参考情報として、金製リングの出土遺跡の情報や「物語」に関連する石製印章やフレスコ画や陶器など、関連画像180点を付加しています。本書で解説する金製シグネットリングは全て精密イラスト画で、さらに関連出土品は一部を除きほとんどを精密イラスト画で、また遺跡情報は写真と作図で公開します。
 本書はクレタ島イラクリオン考古学博物館とアテネ国立考古学博物館を初め、ギリシア各地の考古学博物館で展示公開されている出土品の中から、特に厳選した重要な作品を介して、ミノア文明&ミケーネ文明の「工芸美術の世界」へ誘います。


内容:
I クレタ島ミノア文明&ギリシア本土ミケーネ文明
  I-1 ミノア文明の「宮殿時代」
  I-2 ミケーネ文明
  I-3 ミケーネ人によるクレタ島への「武力侵攻」
II 金製シグネットリングの表現モチーフ
  II-1 神聖なる「文化的イベント」
  II-2 女神の「エピファニー表現」
  II-3 女神&男性神・対話的な「エピファニー表現」
  II-4 「神」への畏敬・恩恵・嘆願の表現
  II-5 「女神or高貴な女性達」
  II-6 男性の「闘い」のシーン
  II-7 聖なるモチーフ・「グリフィン」
  II-8 聖なるモチーフ・「スフィンクス」
  II-9 動物/ウシ・ヤギ・ウマ・ライオン
  II-10 「抽象・祭祀・線文字」
  II-11 その他/高度な技術・「七宝技法」の作品

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サンプル・ページ(抜粋)
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II-1-01 「雄牛跳び」のシーン

          ミノア文明 アルカネス遺跡 金製シグネットリング 「雄牛跳び」

出土遺跡:アルカネス近郊・横穴墓
表現:金製シグネットリング、逆立ち姿勢のミノア青年の《雄牛跳びBull leaping》
年代:LMII期~LMIIIA1期・紀元前1450年~前1375年
展示:Ashmolean Museum, U. Oxford (UK)
・登録番号 AN1896-1908-AE2237/L34mm
・Sir Arthur John Evans寄贈
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 クレタ島・ミノア文明の「新宮殿時代」、MMIII期~LMII期、紀元前1625年~前1400年頃まで、ミノア人の特徴的な文化を代表する「雄牛跳び」は、現代で言えば、全員集合のお祭り的な大きなイベント開催の時に行われた、おそらくスペインの「闘牛」に似た見世物やスポーツ、あるいは幾分神聖な儀式の一つであった、と考えられる。
 この予想を前提とするならば、雄牛跳びは勇気あるミノアの若者達が暴れる雄牛の角につかまったり、背にまたがったり、動き回る雄牛の背上で逆立ちしたりするなど、非常にアクティブな行為であったであろう。

 Sir Arthur John Evansの発掘では、クノッソス宮殿遺跡~南方7km、準宮殿の遺構が確認されたアルカネス近郊の横穴墓から、ミノア文明の工芸モチーフの代表格である雄牛跳びを写実的に刻んだ金製シグネットリングが見つかっている。
 横34mm・縦22mmの楕円形(オーバル形状)の金製リングは、かつて自身が館長を務めたSir Arthur John Evansが、オクスフォード大学・アシュモレアン博物館Ashmolean Museum, U. Oxford (UK)へ寄贈したものである。
 金製リングのやや凸状の印面には迫力ある雄牛跳びのシーン、短めの巻き毛の青年が走る雄牛の背上で逆立ちする姿がインタリオ(凹彫り)で刻まれている。弓なりで腰巻姿の青年の両足は、雄牛の尾を越えて風圧で雄牛の後方へ延び、右腕は雄牛の浮き出た肋骨(あばらぼね)付近、左腕は背骨に置かれている。
 表現は極めて動的なシーンでありながら、変化する動きの一瞬を切り取って刻んだ素晴らしい作品である。その製作は「新宮殿時代」の後期、後期ミノア文明LMII期~LMIIIA1期・紀元前1450年~前1375年とされている。


参考・関連:石製印章 「雄牛跳び」モチーフ

            ミケーネ文明 ミケーネ宮殿遺跡区域・聖所、メノウ製の印章 「雄牛跳び」

出土遺跡:ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・聖所・偶像の部屋Room of the Idols
表現:円形レンズ形状・メノウ製の印章、雄牛跳び(雄牛二頭)・男性一人・樹木
年代:LHIIIB2期・紀元前1250年~前1200年
展示:NFAM・登録番号69-813/L22mm
(現 MYAM・登録番号1861)
現地:ペロポネソス・アルゴス地方
描画:大久保栄次


          ミケーネ文明 ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・「宮殿聖所」周辺 プラン図

遺跡:ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・「宮殿聖所」周辺 プラン図
・大傾斜路の邸宅House of the Great Ramp
・ミケーネ兵士の絵柄容器の邸宅House of the Mycenaean Warrior Vase
・南の邸宅(本館&別館)House of the South, Main Building and Annex
・宮殿聖所・神殿Royal Sanctuary and Shrine
・ツーンタスの邸宅House of Tsountas
年代:聖所建造=LHIIIB2期・紀元前1250年頃?
現地:ペロポネソス・アルゴス地方
作図:大久保栄次


「エピファニー表現Epiphany Expression」

 ミノア文明とミケーネ文明、ともに「女神Goddess」をモチーフにした工芸作品は、建物遺構や墳墓遺構から非常に多数出土している。女神の崇拝思想は、中東地域やエジプト文明からの影響を強く受けたミノア文明で始まり、その後文化的・技術的な影響を受けたギリシア本土ミケーネ文明の工芸分野でも頻繁に表現された。
 女神モチーフでは、ミノア文明とミケーネ文明ともに金製シグネットリングSignet Ringのほか、特に石製印章Stone Sealと印章で押印された粘土印影Clay Imprintで数多くの作品が見つかり、さらにフレスコ画でも表現された。
 女神の表現形態では、女神の単体表現は少なく、多くは女神を中心として人々や動物を配置、とくに聖なるグリフィンGriffinやスフィンクスSphinxなどが女神を守護するシーンScene of protecting Goddessが顕著である。また、ミノア文明では女神が作品の遠方(小さく)に遠近表現され、雲や天の彼方から人々の行動や様を見守る姿のパターンも確認できる。
 このような女神が人々を守護するパターンを研究者は「エピファニー表現Epiphany Expression」と呼び、聖なる特別なシーンでありながらも、日常的にも起こり得る情景と判断している。

 ミノア文明とミケーネ文明では、女神は特別な姿ではなく、やや高位の女性と同じ姿(体位)で表現されているが、衣装は特別な仕様、ほとんどの女神はミノア文明発祥の歴史上初めてとなる複数の布地を縫い合わせた、「V」の重ね紋様が特徴のやや厚ぼったい感じのロングスカート姿がスタンダードである。
 また、ミノア文明の工芸作品における女神は、必ず頸部~背中に掛けて、現代で言えば真冬に巻く「マフラー」に似た結び目を背負っている。これをクノッソス宮殿遺跡の発掘者Sir Arthur John Evansは、「聖なる結び目Sacral Knots」と呼んだ。この結び目は同じくミノア文明の崇拝シンボルであった「両刃斧Double Axe」と並び、極めて高次な崇拝対象であり、女神や聖なる具象の表現では「同伴モチーフ」として頻繁に登場する。


II-2-01 「女神」のエピファニー表現 《アルカネスの王女の金製リング》

          ミノア文明 アルカネス遺跡・トロス式墳墓A 金製シグネットリング 「アルカネス王のリング」

出土遺跡:アルカネス遺跡・フォウルニ共同墓地・トロス式墳墓A
表現:金製シグネットリング/エピファニー表現:女神・聖石・聖所・聖なる樹木・男性
年代:MMIIIB期~LMIA期・紀元前1600年~前1500年
展示:HAM・登録番号989/横L26mm
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 クノッソス宮殿遺跡~南方7km、アルカネス遺跡Archanes・フォウルニ共同墓地Fourni、「アルカネスの王女Princess of Archanes」の墳墓とされるトロス式墳墓Aから出土した金製シグネットリングは、横幅26mmの楕円形(オーバル形状)、特徴的なエピファニー表現である。
 印面の中央には特徴的な厚ぼったいスカート姿のミノアの女神が立ち、その右側には三分割聖所と思われる神殿風の建物とカーブして延びる聖なる樹木が生え、神の恩恵を得るためその枝葉に触れようとしているのか、活動的なミノアの若い男性が刻まれている。
 一方、印面の左側には、聖なる石に膝を付き何かを崇拝しているのか、あるいは埋葬用の大型ピトスを抱えるような仕草なのか、やや落胆気味のミノアの男性が居る。そして女神と膝付きの男性の間の空間には二頭(匹)のチョウ、さらにチョウの上部には植物の死と再生(死生観)に関わるエジプト・オシリス柱と思われる微細刻みが確認できる。


アルカネス遺跡・トロス式墳墓A(アルカネスの王女の墳墓)

            ミノア文明 アルカネス遺跡・トロス式墳墓 「アルカネス王女の墳墓」

遺跡:アルカネス遺跡・フォウルニ共同墓地・トロス式墳墓A(アルカネスの王女の墳墓)
状態:長さ18m 通路ドロモス~入口/トロス部内径4.5m
埋葬床面=半地下式 埋葬副室サイズ=2m四方
トロス部~通路ドロモス=N90°(東方へ開口)
年代:MMIIIB期~LMIA期・紀元前1600年~前1500年
現地:クレタ島・中央北部/クノッソス宮殿遺跡~南方7km
描画:(1994年)大久保栄次
GPS:35°14'42''N 25°09'32''E/標高430m


II-2-02 「女神」のエピファニー表現

          ミケーネ文明 ミケーネ地区・パナギア区域Panagia・横穴墓91号墓 金製シグネットリング 女神・聖木・聖所

出土遺跡:ミケーネ地区・パナギア区域Panagia・横穴墓91号墓
表現:オーバル形状の金製シグネットリング
エピファニー表現:聖所・聖なる樹木・男性・見守る女神・神に嘆願の女性
年代:LHII期~LHIIIA1期・紀元前1550年~前1375年
展示:NAM・登録番号3179/L29mm
現地:ペロポネソス・アルゴス地方
描画:大久保栄次


 アルカネス遺跡・王女の墳墓からの金製シグネットリングと類似するモチーフだが、ミケーネ地区・パナギア区域の横穴墓からの金製シグネットリングでは、印面の左側に石畳が続く聖なる樹木の聖所があり、神のご利益Divin Favorに肖ろうとするミケーネの男性、右側には聖所のテーブルで何かを神に嘆願するミケーネ女性が首を垂れ、それらを見守る女神が印面の中央に立って居る。この金製リングのモチーフも女神のエピファニー表現である。


II-2-03 「女神」のエピファニー表現 《ミノス王の金製リング》

          ミノア文明 クノッソス宮殿・王家の墳墓Temple Tomb、金製シグネットリング 「Gold Ring of King Minos」

出土遺跡:クノッソス地区 王家の墳墓Temple Tomb
(現在 立入禁止区域)
表現:金製シグネットリング/エピファニー表現・女神・祭祀王・聖所・雄牛角U型
年代:MMIII期~LMIB期・紀元前1600年~前1450年
展示:HAM/重さ約30g
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 Sir Arthur John Evans により《ミノス王の金製シグネットリングGold Ring of King Minos》と呼ばれた金製リングは、1928年、クノッソス地区の10歳の少年Michalis Papadkisが、王家の墳墓Temple Tombのわずか10mほど南方の耕作地の地表面で見つけた、とされている。
 その後、70年あまり金製リングは行方不明となっていたが、ギリシア政府が取得、ミノア文明の「本物」と確定した結果、2002年7月以降、イラクリオン考古学博物館HAMの「至宝」の一つとして展示公開されている。

 インタリオ彫りの微細で精緻加工が特徴の、この金製リングのモチーフはエピファニー表現 Epiphany であり、極めて尊貴な人物と女神、聖なる樹木の山頂聖所と神殿、聖なる雄牛角U型オブジェや特徴ある高貴な舟など、非常に高尚にして厳粛な宗教的なシーンが印面に隙間なく刻まれている。
 金製リングの製作は「花ほとばしる新宮殿時代」の前半、中期ミノア文明MMIII期~後期ミノア文明LMIB期・紀元前1600年~前1450年である。


            ミノア文明 地図 クノッソス宮殿遺跡&周辺

クノッソス宮殿遺跡&周辺
現地:クレタ島・中央北部
作図:大久保栄次


参考・関連:ミノア文明の「女神Goddess」と「聖なる結び目Sacral Knots」

               ミノア文明 クノッソス宮殿遺跡・西翼部・西貯蔵庫群 フレスコ画「女神パリジェンヌ」

出土遺跡:クノッソス宮殿遺跡・西翼部・西貯蔵庫群・第12号室
表現:発掘者Evans=フレスコ画 《女神パリジェンヌGoddess Parisienne》と令名
年代:LMI期・紀元前1500年頃
展示:HAM・登録番号11/H250mm
現地:クレタ島・中央北部
撮影:1994年


 クノッソス宮殿遺跡・西翼部一階、宮殿管理の西貯蔵庫群West Storeroomsの第12号室付近から見つかったフレスコ画断片の一つは、その姿勢正しい美しさをして、発掘者Sir Arthur John Evansは《女神パリジェンヌGoddess Parisienne》と令名した。
 紀元前1375年頃、原因不明の大火災でクノッソス宮殿の最終崩壊の時、フレスコ画《女神パリジェンヌ》は当時描かれていた上階(二階)の聖なる北西儀式広間Northwest Sanctuary Hallの壁面が火炎で破壊され、瓦礫と化した大量の建築部材と共に階下の西貯蔵庫群へ微塵となって崩落した、と想定できる。

 ミノア文明の女神は、体形や衣装など貴族階級の高貴な女性とまったく同じ姿だが、女神はベレー帽のような今日で言えば「ファシネーターFascinator」に似たヘッドドレスを被る場合、あるいはフレスコ画《女神パリジェンヌ》に例を見るように、頸部~背にかけて発掘者Sir Arthur John Evansが呼んだ、特徴ある「聖なる結び目Sacral Knots」と呼ばれる装身具を付けていた。「聖なる結び目」は、ミノア文明やミケーネ文明の人々の精神文化と宗教に深く関係する神聖なるシンボルであった。


II-2-04 「女神」のエピファニー表現 《ミケーネ・アクロポリスの財宝》

          ミケーネ文明 ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・大傾斜路の邸宅 金製シグネットリング 「アクロポリスの財宝」 女神・聖所

出土遺跡:ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・大傾斜路の邸宅House of the Great Ramp
表現:オーバル形状の金製シグネットリング
《ミケーネ・アクロポリスの財宝Treasure of the Mycenaean Acropolis》
エピファニー表現:女神6人・聖所&聖なる樹木・太陽&三日月・色々な花など
年代:LHIIA期・紀元前1500年~前1450年
展示:NAM・登録番号992/L34mm・W25mm
現地:ペロポネソス・アルゴス地方
描画:大久保栄次


 ミケーネ宮殿遺跡・円形墳墓Aの直ぐ南東側、大傾斜路の邸宅House of the Great Rampから見つかった金製シグネットリングは、《ミケーネ・アクロポリスの財宝Treasure of the Mycenaean Acropolis》の一つであり、印面には女神6人が登場する神々しい聖なる情景がエピファニー表現で隙間なくびっしりと刻まれている。
 大型の金製リングの印面の左側には、聖所と枝葉を広げた聖なる樹木があり、小さく刻まれた女神が神の恩恵を授かろうと聖なる樹木の枝葉か果実に触れている。中央上部には天を意味するUカーブした雲が流れ、太陽と三日月、さらにヴァイオリン形容の聖なる「8の字形」のやや小さな女神が下方の神的な情景を見守り、中央部には大型の聖なる両刃斧が燦然と輝いている。
 メインスペースには大きな女神が三人、おそらく高位の左女神が岩場に座り、右方からロングヘアの若い二人の女神が右端の花咲く草原で摘んだユリやポピー花を岩場の女神へ差し出すような仕草である。そして中央の下部分、座り女神と立ち女神の間には、小女神が座り女神へ花を差し出そうとしている。
 神聖なる「8の字」形容の衣装の女神を除き、ほかの全ての女神達はクレタ島ミノア文明発祥の特徴的な厚ぼったいスカート姿、携える色々な花はユリやポピーなどで、一部の女神はネックレースを付けている。


参考・関連:ミノア文明の影響を受けたミケーネ・フレスコ画の「女神」

          ミケーネ文明 ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・聖所・フレスコ画の部屋、フレスコ画 ”ミノアの女神”

出土遺跡:ミケーネ宮殿遺跡・宮殿区域・聖所・フレスコ画の部屋
表現:フレスコ画 《穀物束を持つミノアの女神Minoan Goddess with Sheaves of Grain》
年代:LHIIIB期・紀元前1250年頃
展示:NFAM/右人差し指~左人差し指=約26cm
現地:ペロポネソス・アルゴス地方
撮影:1982年


II-2-07 「女神」のエピファニー表現 「踊るミノアの女性達」

          ミノア文明 イソパタ遺跡 金製シグネットリング 「Gold Isopata Ring」

出土遺跡:イソパタ遺跡・王家の墳墓・横穴墓1号墓
表現:金製シグネットリング/エピファニー表現:女神・ヘビ・踊る女性達・スミレ花の草原
年代:LMI期・紀元前1550年~前1450年
展示:HAM・登録番号424/横L26mm
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 「王家の墳墓グループ」・横穴墓1号墓と1a号墓は、広義の「関連横穴墓」と言える構造である。北方向へ延びる55m以上、非常に長い通路ドロモスを備えた1号墓が造営された後、1号墓の通路ドロモスを直角に横切る形で、東方から1a号墓の約12mの長さの通路ドロモスが掘削施工された、と考えられている。
 天井部は破壊されていたが、「王家の墳墓グループ」・横穴墓1号墓の前室と埋葬室の側面は、完璧に切石組み施工された堅固な仕様であった。素晴らしい金製シグネットリングが見つかったのは、埋葬室内に造られた深さ1.7mのキスト墓からである。
 この金製シグネットリングは、ミノア文明の金製リングや石製の印章などを語る時、最優先でピックアップされるほど、ミノア工芸美術の「最高傑作の宝飾品」の一つとされ、その象徴的な意味を込めて研究者から《金製イソパタ・リングGold Isopata Ring》と固有名詞で呼ばれている。

 印面幅26mm、楕円形(オーバル形状)、この金製シグネットリングにインタリオ(凹彫り)で刻まれた情景は、研究者から「神出(かみいずる)エピファニー表現」と呼ばれ、極めて神的要素を含みながらも、それでいて日常的にもあり得る情景でもある。
 遠近法で表現されていることから、金製リングの女神は中央左遠方に「小さく」刻まれ、その足元に一匹のヘビが、さらに右遠方にもやや大きなヘビが刻まれていることから、場面は極めて神聖な雰囲気と判断できる。
 印面に大きく刻まれているのは特徴的な厚ぼったいスカート姿の四人のミノアの女性達である。左側の二人と中央の女性は髪飾りとロングヘアが揺れていることから「若い女性」、右側の女性の髪は結ってあり三人より少し「年上女性」であろう。四人の周囲にはスミレの花が咲き乱れていることから、時期は春の頃、場所は宮殿の南方のジプサデス丘Gypsades Hillなどの草原である。

 若い女性達がある年齢に達したことを祝う、何か喜びの踊りなのか、あるいは女神が見守る中で執り行う何かの儀式なのかは想像の域である。ただ、中央の女性の左腰近くに「眼」のような刻みがある。これは、幾らかの研究者は発芽する新芽としている。
 ただ、著者はこの「眼」に似た刻みを「イソパタの暗号Isopata’s Code」と考えている。もしかしたら、三人の若い女性達が「子供を宿す時期」になったことを意味するのではないだろうか? 女神が天から見守る中、その祝いを右側の経験者である先輩女性がリードして、全員で伝統ある「喜びの舞」を踊っている可能性がある。だとしたら、この「神出(かみいずる)エピファニー表現」は、女性に関わる生理学的な成長と幸ある未来への期待を秘めた神聖なるシーンなのかもしれない。

 この金製シグネットリングの所有者(被葬者)は、ミノア文明の最も繁栄した平和で豊かな時代、クノッソス宮殿に住んだミノアの王妃、または可憐な王女、高位貴族など尊貴な女性であった。その製作は「花ほとばしる新宮殿時代」の最盛期、後期ミノア文明LMIA期~LMIB期・紀元前1550年~前1450年とされている。
 なお、横穴墓1号墓の最終埋葬は、金製リングの製作時期より半世紀ほど後、後期ミノア文明LMII期・紀元前1450年~前1400年と断定されている。


II-5-03 「女神or高貴な女性達」 「聖所を詣でる」シーン

          ミケーネ文明 ミケーネ地区 横穴墓 金製シグネットリング 三人の女神・聖所参拝シーン

出土遺跡:ミケーネ地区・市街地区域・横穴墓55号墓
表現:オーバル形状・金製シグネットリング
・アーム部=造粒装飾/花を携える女神or女性三人・聖所
年代:LHII期~LHIIIA1期・紀元前1500年~前1375年
展示:NAM・登録番号2853/L25mm
現地:ペロポネソス・アルゴス地方
描画:大久保栄次


 聖所を参拝するのか、両手に花を携えた三人の女神orミケーネ女性が石畳の参道を歩んでいる。二人の女性はネックレース、三人共にアームレットを付け、クレタ島ミノア文明の影響を受けた特徴ある厚ぼったい感じのスカート姿である。
 聖なる場所を訪れる時、女神や高貴な身分の人も含めすべての参拝者は「素足」であることに注目したい。また、横穴墓55号墓からは、聖なるスフィンクスを刻んだ金製シグネットリングも同時に出土している。


参考・関連:ミノア文明・フレスコ画 《青の婦人達Ladies in Blue》

          ミノア文明 クノッソス宮殿遺跡 フレスコ画 「青の婦人達」

出土遺跡:クノッソス宮殿遺跡・東翼部・「機織り重りの階下Loom Weight Basement」
表現:フレスコ画 《青の婦人達Ladies in Blue》
年代:MMIIIA期~LMIA期・紀元前1625年~前1500年
展示:HAM
・スイス人考古学美術家Émile Gilliéron(1850 年~1924年)修復・復元
現地:クレタ島・中央北部
撮影:1994年


II-6-01 「二輪走行車or戦車とミケーネ男性」

          ミケーネ文明 アイドニア遺跡Aidonia・共同墓地・横穴墓 金製シグネットリング 「アイドニアの財宝」 二輪戦車とミケーネ人

出土遺跡:アイドニア遺跡Aidonia・共同墓地・横穴墓
表現:オーバル形状の金製シグネットリング 《アイドニアの財宝Treasure of Aidonia》
・ウマが引く二輪走行車or戦車Two-wheeled Chariotに搭乗するミケーネ男性
年代:LHI期~LHII期・紀元前1500年頃
展示:NEAM・登録番号1005/L33.5mm
現地:ペロポネソス・コリンティア地方
描画:大久保栄次


II-7-05 聖なるモチーフ・「グリフィン」 最高級の印章タイプ

          ミケーネ文明 ネストル宮殿遺跡・王家のトロス式墳墓IV墓 金製印章 グリフィン絵柄

出土遺跡:ネストル宮殿遺跡・「王家の墳墓Royal Tholos Tomb」・トロス式墳墓IV墓
表現:クッション形状・ビーズ形式の金製印章
・羽根を広げるグリフィン・トリグリフ紋様/裏面=菱形(網目)紋様
年代:MHIII期~LHIIA期・紀元前1650年~前1450年
展示:NAM・登録番号7986/L27mm・W21mm
現地:ペロポネソス・メッセニア地方
描画:大久保栄次


 ネストル宮殿遺跡・「王家の墳墓」・トロス式墳墓IV号墓から見つかった、ほぼ無傷の状態で発見された印章の長方形印面には、左右に大きく羽根を広げて座る非常に精緻な加工の聖なるグリフィンが刻まれている。グリフィンは、後世のアテネ・アクロポリスのパルテノン神殿などドーリア式建築のフリーズ飾りのメトープ間を仕切る半割トリグリフTriglyphと同じ形式の刻みが連鎖する台座か、ステージのような場所に座り、身体全体は右方向だが、頭部は左後方を振り向くような昂然たる姿勢である。ミケーネ文明の金製工芸品を象徴する最高レベルの作品である。
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