ミノア文明 印刷書籍

著者:大久保栄次
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大久保栄次著 印刷書籍・電子書籍
エーゲ海ミノア文明・ミケーネ文明の遺産 遺跡と出土品詳細データ

ミノア文明 主要出土品440点

・サブタイトル: 精密イラスト画による出土品からエーゲ海先史文明を旅する
・表記: 日本語
・形式: ペーパーバック
・印刷: 光沢なし最上質紙 高鮮明度プレミアムインキ
・サイズ: B5版 488ページ 厚さ2.9cm
・販売: Amazonネットワーク/Amazon.co.jp

内容概要

 本書は、B5版・488ページ、エーゲ海の先史ミノア文明遺跡から発掘された出土品の「精密イラスト画&データブック」です。
 本書はミノア文明センターであったクノッソス宮殿遺跡を初め、クレタ島各地のミノア文明遺跡からの主要出土品の内、一際優れた出土品440点をピックアップしています。解説する出土品の70%以上は精密イラスト画で、残りは写真で公開します。

 ミノア文明の出土品展示では世界最高峰のクレタ島イラクリオン考古学博物館を初め、首都アテネ国立考古学博物館を含め、各地の考古学博物館で展示公開されている出土品の中から、特に厳選した重要な作品を介してミノア文明の「工芸美術の世界」へ誘います。


内容:

I 宝飾品/金・銀・宝石
II フレスコ画
III 陶器/初期~中期~後期ミノア文明
IV 印章&粘土印影
V 石製品
VI 線文字A・線文字B・絵文字
VII 青銅品&武器
VIII テラコッタ塑像&陶棺
IX 象牙品
X 農業&漁業

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サンプル・ページ(抜粋)
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I-1-01 金製リシグネットング 《Gold Ring of King Minos》

          ミノア文明 クノッソス宮殿・王家の墳墓Temple Tomb、金製シグネットリング 「Gold Ring of King Minos」

出土遺跡:クノッソス地区 王家の墳墓Temple Tomb
(現在 立入禁止区域)
表現:金製シグネットリング/エピファニー表現・女神・祭祀王・聖所・雄牛角U型
年代:MMIII期~LMIB期・紀元前1600年~前1450年
展示:HAM/重さ約30g
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 Sir Arthur John Evans により《ミノス王の金製シグネットリングGold Ring of King Minos》と呼ばれた金製リングは、1928年、クノッソス地区の10歳の少年Michalis Papadkisが、王家の墳墓Temple Tombのわずか10mほど南方の耕作地の地表面で見つけた、とされている。
 その後、70年あまり金製リングは行方不明となっていたが、ギリシア政府が取得、ミノア文明の「本物」と確定した結果、2002年7月以降、イラクリオン考古学博物館HAMの「至宝」の一つとして展示公開されている。

 インタリオ彫りの微細で精緻加工が特徴の、この金製リングのモチーフはエピファニー表現 Epiphany であり、極めて尊貴な人物と女神、聖なる樹木の山頂聖所と神殿、聖なる雄牛角U型オブジェや特徴ある高貴な舟など、非常に高尚にして厳粛な宗教的なシーンが印面に隙間なく刻まれている。
 金製リングの製作は「花ほとばしる新宮殿時代」の前半、中期ミノア文明MMIII期~後期ミノア文明LMIB期・紀元前1600年~前1450年である。


I-1-02 金製シグネットリング 《イソパタ・リング Gold Isopata Ring》

          ミノア文明 イソパタ遺跡 金製シグネットリング 「Gold Isopata Ring」

出土遺跡:イソパタ遺跡・王家の墳墓・横穴墓1号墓
表現:金製シグネットリング/エピファニー表現・女神・ヘビ・踊る女性達・スミレ花の草原
年代:LMI期・紀元前1550年~前1450年
展示:HAM・登録番号424/横L26mm
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 北方向へ延びる55m以上、長い通路ドロモスを備えたイソパタ遺跡Isopata・王家の墳墓・横穴墓1号墓の前室と埋葬室の側面は、完璧に切石組み施工された堅固な仕様であった。
 正方形の埋葬室の南東側床面に「L字形」に掘削された深さ約1.7mのキスト墓があり、中から女神と二匹のヘビが見守る中、四人のミノア女性達がダンスに興じる情景を描写した、ミノア工芸美術の最高傑作の宝飾品の一つ、素晴らしい金製シグネットリングが出土した。

 ミノア風の厚ぼったいスカート姿の女性達、左側の二人と中央の女性は髪飾りとロングヘアが揺れていることから「若い女性」、右側の女性の髪は結ってあることから三人より少し「年上女性」であろう。四人の周囲にはスミレの花が咲き乱れることから、時期は春の頃、場所はクノッソス宮殿の南方のジプサデスの丘など草原である。

 この金製シグネットリングの所有者(被葬者)は、ミノア文明の最も繁栄した平和で豊かな時代、クノッソス宮殿に住んだミノアの王妃、または可憐な王女、高位貴族など尊貴な女性であった。その製作は「花ほとばしる新宮殿時代」の最盛期、後期ミノア文明LMIA期~LMIB期・紀元前1550年~前1450年とされている。


I-1-04 金製シグネットリング 《雄牛跳び》

          ミノア文明 アルカネス遺跡 金製シグネットリング 「雄牛跳び」

出土遺跡:アルカネス近郊・横穴墓
表現:金製シグネットリング/逆立ち姿勢のミノア青年の《雄牛跳び》
年代:LMII期~LMIIIA1期・紀元前1450年~前1375年
展示:Ashmolean Museum, U. Oxford (UK)
登録番号AN1896-1908-AE2237/横L34mm
Sir Arthur John Evans 寄贈
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 クノッソス宮殿遺跡~南方7km、アルカネス近郊Archanesの横穴墓の発掘では、Sir Arthur John Evansがミノア文明の工芸モチーフの代表格である「雄牛跳び」を写実的に刻んだ、印章タイプの金製リングを見つけている。横34mm・縦22mmの楕円形(オーバル形状)の金製リングは、かつて自身が館長を務めた Evans が、オクスフォード大学・アシュモレアン博物館Ashmolean Museum, U. Oxford (UK)へ寄贈したものである。

 金製シグネットリングのやや凸状の印面には迫力ある雄牛跳びのシーン、短めの巻き毛のミノア青年が疾走する雄牛の背上で逆立ちする姿をインタリオ彫りで表現している。弓なりで腰巻姿の青年の両足は、雄牛の尾を越えて風圧で雄牛の後方へ延び、右腕は雄牛の浮き出た肋骨(あばらぼね)付近、左腕は背骨に置かれている。

 表現は極めて動的なシーンでありながら、変化する動きの一瞬を切り取って刻んだ素晴らしい作品である。その製作は「新宮殿時代」の後期、後期ミノア文明LMII期~LMIIIA1期・紀元前1450年~前1375年とされている。


I-2-10 ネックレース 「金製ビーズ・緑ジャスパー」

            ミノア文明 アルカネス遺跡、きんせい&象牙ネックレース、緑ジャスパー

出土遺跡:アルカネス遺跡・フォウルニ共同墓地・トロス式墳墓Γ
表現:金製&象牙ビーズ・ネックレース、トップ=緑ジャスパー
年代:EMIII期・紀元前2200年~前2000年
展示:HAM
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 アルカネス遺跡Archanes・フォウルニ共同墓地のトロス式墳墓Γ(C)は、メッサラ様式の円形墳墓と同様な構造を成し、埋葬のトロス部は比較的小さく内径3.6mであった。
 トロス内部で確認された11基のラルナックス陶棺と多くのピトス容器の陶棺、さらに墳墓入口付近を含めた床面に安置された遺体を含め、合計50体以上の遺体が確認された。初期ミノア文明EMIII期・紀元前2200年~前2000年までの埋葬である。

 狭い埋葬室に重ねられた陶棺、さらに床面に多くの遺体を並べるという条件から、トロス部では余裕スペースが限定されていた。このため複数の青銅製の短剣を除き、大きな形状の埋葬儀式用品などはなく、被葬者が身に付けていた宝飾品など小さな副葬品・合計270点の多くは、ラルナックス陶棺の下と床面の遺体の下(地中)から出土した。


II-2-01 フレスコ画 《青の婦人達》

          ミノア文明 クノッソス宮殿遺跡 フレスコ画 「青の婦人達」

出土遺跡:クノッソス宮殿遺跡・東翼部・「機織り重りの階下」
表現:フレスコ画 《青の婦人達Ladies in Blue》
年代:MMIIIA期~LMIA期・紀元前1625年~前1500年
展示:HAM/スイス人考古学美術家Émile Gilliéron(1850年~1924年)修復・復元
現地:クレタ島・中央北部
撮影:1994年


 発掘者Sir Arthur John Evansは、クノッソス宮殿遺跡・東翼部の東階段通路の直ぐ北側の一階レベルの区画を「機織り重りの階下Loom Weight Basement」と呼んだ。イラクリオン考古学博物館HAMの「至宝」のフレスコ画《青の婦人達Ladies in Blue》は、この区画の東貯蔵庫群の北側の通路付近で見つかった。

 華やかな髪飾りを付けたカールするロングヘア、細い眉毛、凛々しくも淑やかな顔形、エジプト・アレキサンドリアから直輸入された流行の豪華なネックレースとブレスレット、余りに大きなバストとミノア織りの斬新デザインの衣装・・・

 「花ほとばしる新宮殿時代」の初期、紀元前1650年~前1500年に遡るこの美しいフレスコ画は、紀元前1375年頃、大火災となったクノッソス宮殿の最終崩壊の時、東翼部・上階の高貴な部屋から崩落した、と推測されている。


II-3-05 フレスコ画 《イルカと魚》

          ミノア文明 クノッソス宮殿遺跡 王妃の間 フレスコ画 「イルカと魚群れ」

出土遺跡:クノッソス宮殿遺跡・東翼部・王妃の間
表現:フレスコ画/小壁(上部壁面)を飾る《イルカと魚》の群れ
年代:MMIIIA期~LMIB期・紀元前1625年~前1450年
展示:HAM
現地:クレタ島・中央北部
撮影:1994年


 クノッソス宮殿遺跡Knossos Palace・東翼部、石膏石で床面舗装された王妃の間はスペース的にはやや狭い感じだが、東側には二本円柱のベランダ形式の部屋があり、さらに東と南側には天空に開口した採光用の小さな中庭が付属されていることから、常に部屋の奥までクレタの明るい光が入っていたと想像できる。

 王妃の間の壁面と角柱は、ミノア文明の最大の特徴である海洋性デザインの愛らしいイルカや魚が群れで泳ぐ様、渦巻き線(類似II-1-01)や抽象的な紋様、《踊るミノア女性 II-2-06》などの美しいフレスコ画で装飾されていた。
 イラクリオン考古学博物館HAMで展示公開されている、多くのクノッソス宮殿遺跡からのフレスコ画の残留断片は何れも非常に少ないことが分かる。王妃の間から出土、和風建築の小壁に相当する天井に近い壁面を飾っていたフレスコ画《イルカと魚Dolphins&Fish》では、本物の破断片はわずかな量、残りのほとんどのスペースには複製のイルカや魚の個体が追加描写され、修復されている。


III-2-11 カマレス様式・ブリッジ型注ぎ口付き 水入れ

            ミノア文明 フェストス宮殿遺跡 カマレス様式陶器 水入れ サフラン絵柄

出土遺跡:フェストス宮殿遺跡・東翼部・第64室(王子の部屋)
表現:カマレス様式の水入れ・連鎖するサフラン・渦巻き線紋様
年代:MMIIB期・紀元前1700年~前1625年
展示:HAM/高さH約430mm
現地:クレタ島・メッサラ平野
描画:大久保栄次


 植物性デザインの代表格、サフランの花をモチーフにしたカマレス様式陶器では、メッサラ平野のフェストス宮殿遺跡Phaestos Palaceからの出土品、ブリッジ型注ぎ口付き水入れがある。
 サフランの花の対(二個)を上下対称として、流行していたモチーフの一つ、水飴が回転しながら湾曲して垂れるようなカンマ紋様と大胆な渦巻き線の組み合わせの絵柄である。「旧宮殿時代」の後半期、中期ミノア文明MMIIB期に属する、典型的なカマレス様式陶器のモチーフを力強く表現している。
 水入れの出土スポットは、「旧宮殿時代」の円柱礎が残る東翼部の第64室、「王子の部屋Prince Room」と呼ばれる区画からである。


III-6-01 植物性デザイン様式 水差し

                  ミノア文明 フェストス宮殿遺跡 植物性デザイン様式 水入れ ヨシ絵柄

出土遺跡:フェストス宮殿遺跡
表現:植物性デザイン様式の水差し、ヨシの絵柄
年代:LMIB期・紀元前1500年~前1450年
展示:HAM・登録番号3962/高さH290mm
現地:クレタ島・メッサラ平野
描画:大久保栄次


 ミノア陶器を代表する植物性デザイン様式の最も美しい陶器の一つ、フェストス宮殿遺跡から出土したヨシの絵柄の水差しがある。明るい地に暗色のヨシの群生だけを描いた、一見では単純なモチーフだが極めて精緻な作品である。


III-10-16 テラコッタ製 《雄牛遊び》

            ミノア文明 コウマサ遺跡 テラコッタ製塑像 雄牛遊び

出土遺跡:コウマサ遺跡・円形墳墓E
表現:テラコッタ製・三人のミノア男性の《雄牛遊び・雄牛乗り》
年代:MMIIA期・紀元前1800年頃
展示:HAM・登録番号4676/長さL208mm
現地:クレタ島・メッサラ平野
描画:大久保栄次
GPS:34°59'00''N 25°00'47''E/標高360m


 南西部・メッサラ平野のコウマサ遺跡Koumasaの円形墳墓Eからは、ミノア文明の特徴の一つ、「雄牛跳び」に共通する、テラコッタ製のリュトン杯《雄牛遊び or 雄牛乗り》が出土している。
 三基のメッサラ様式の円形墳墓と一基の方形墳墓が確認されたコウマサでは、初期ミノア文明EMII期・紀元前2600年頃から埋葬が始まったとされ、特にテラコッタ製のリュトン杯《雄牛遊び or 雄牛乗り》が出土した円形墳墓Eは、「旧宮殿時代」に相当する時期、中期ミノア文明MMIIA期・紀元前1800年頃の埋葬に使われた。


IV-1-10 カルセドニー製印章 「野生ヤギと犬」

               ミノア文明 アルカネス遺跡 カルセドニー製印章 ヤギとイヌ

出土遺跡:アルカネス遺跡
表現:カルセドニー製クッション形状の印章・イヌと崖上の野生ヤギ
年代:MMIIIB期~LMIA期・紀元前1600年~前1500年
展示:Ashmolean Museum, U. Oxford (UK)・登録番号AN1938-954/横L12mm・縦W15mm
Sir Arthur John Evans 寄贈(1938年)
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 出土場所のピンポイントは不明だが、Sir Arthur John Evansの発掘でアルカネス遺跡Archanesから出土、後にEvansによりオクスフォード大学・アシュモレアン博物館Ashmolean Museumへ寄贈とされた石製の印章がある。
 カルセドニー製のフラット系円筒型(クッション形状)の印面には、崖下で吠えるイヌと崖上で余裕をもって見下げている野生ヤギが刻まれている。ややユーモラスなシーンだが、動物世界であり得る情景を観察した印章職人のシャープな感性が見て取れる作品である。


IV-3-03 粘土印影 《調教師とライオン》

              ミノア文明 クノッソス宮殿遺跡 神殿宝庫 粘土印影 ライオンと調教師

出土遺跡:クノッソス宮殿遺跡・西翼部・聖域・神殿宝庫
表現:粘土印影・従順なライオンと威厳の調教師一人
年代:LMIIIA1期・紀元前1375年頃
展示:HAM・登録番号383/縦W約21mm
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 クノッソス宮殿遺跡・西翼部、聖域の神殿宝庫Temple Repositoriesから出土した縦21mmの《調教師とライオン》の粘土印影では、従順そうなライオンの脇に立つ一人の調教師は、羽根飾りの付いた三角帽子かヘルメットを被り、長い棒を持っている。

 粘土印影の年代は、クノッソス宮殿が最終崩壊した時、後期ミノア文明LMIIIA1期・紀元前1375年頃だが、当然、印章はそれより以前に製作されたはずである。印章技法とモチーフの流行からの推定では、印章はその100年以上前、「花ほとばしる新宮殿時代」の最盛期、紀元前1500年頃に作られたと研究者は判断している。


V-2-05 石灰岩製 《雄牛頭型リュトン杯》

          ミノア文明 クノッソス宮殿遺跡 神殿宝庫 石灰岩製リュトン杯 ライオン頭像

出土遺跡:クノッソス宮殿遺跡・西翼部・聖域・神殿宝庫
表現:石灰石製の 《ライオン頭型リュトン杯》
年代:LMIA期・紀元前1500年頃
展示:HAM・登録番号44/長さL295mm
現地:クレタ島・中央北部
描画:大久保栄次


 Sir Arthur John Evansの発掘ミッションで、ファイアンス製《ヘビの女神像(III-10-03)》など、無数の宮殿の宝物品が出土したクノッソス宮殿遺跡・西翼部、聖域の神殿宝庫からは、やや黄色み大理石に近似する石灰岩製の《ライオン頭型リュトン杯Lion-head Rhyton》が出土している。

 この美しい表面光沢を放す儀式・祭祀用のリュトン杯は、クレタ島・最東部のザクロス宮殿遺跡・西翼部で見つかったファイアンス製の《雄牛頭型リュトン杯(III-10-14)》に感じが似ている。ただし、ザクロス宮殿遺跡のリュトン杯は形状がやや小ぶりである。


VII-1-02 ミケーネ様式装飾剣 金表装

             ミノア文明 ザフェール・パポウラ遺跡 青銅製剣 ライオンとヤギの絵柄

出土遺跡:ザフェール・パポウラ遺跡・竪穴墓36号墓 《首領の墳墓》
表現:分類=「Type-D剣」・青銅製の装飾剣・メノウ柄頭&金表装ハンドル
年代:LMII期~LMIIIA1期・紀元前1450年~前1350年
展示:HAM・登録番号1098/長さL610mm
現地:クレタ島・中央北部
撮影:1982年/描画:大久保栄次


 Sir Arthur John Evansの発掘ミッションでは、緩斜面のオリーブ耕作地、南北約200m・東西約140m、ザフェール・パポウラ遺跡Zafer Papouraの共同墓地区域から竪穴墓Shaft Grave=33基、横穴墓Chamber Tomb=49基、ピット墳墓Pit Grave=8基、合計100基を数える無数の墳墓が確認された。

 竪穴墓36号墓・《首領の墳墓Chieftain's Grave》から出土した、長さ610mm、平行縞模様のオニキス・メノウの柄頭の「Type-D剣」の中型剣では、グリップハンドルに三か所(大)、ショルダー部に二か所(小)、合計五か所のリベット留めがある。

 ハンドルの柄頭側には逃げ惑う野生ヤギの腰~後脚を襲うライオンが、さらにショルダーにはライオンと野生ヤギが互いにけん制し振り返って見つめ合うシーンが、金製の打出し表現されている。弱肉強食の野生動物の世界、強者ライオンと野生ヤギの互いの警戒から始まり、次の瞬間にライオンの猛襲が始まるという、狭いスペースながらも剣の装飾に「物語性」の要素が見え隠れしている素晴らしい作品である。

 グリップハンドルの側面(青銅部分)には、同時に出土した金製リベット仕様の長剣(VII-1-03)と同様に、二列連鎖の渦巻き線紋様が刻印、さらにそれは延長されてショルダー部クロスガード(鍔)の側面にも二列連鎖の渦巻き線紋様が刻印されている。
 また、ブレード(刀身)の中央線は盛り上がりの強化リブ仕様、やはり二列連鎖の渦巻き線紋様が刻印されている。墳墓の被葬者は極めて高位の立場にあった「占領ミケーネ人」の男性であろう。
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