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ラガゾォーイ展望台(標高2,750m)〜南東方向の展望/ドロミテ山塊地方 |
● 有名な高原リゾート/スキーのメッカ 1972年に札幌で冬季オリンピックが開催される以前、1956年、ドロミテ山塊の東部地区の中心地コルチナ・ダンペッツォ Cortina d'Ampezzo で冬季オリンピックが開催された。この自慢の歴史を踏まえ、今でもホテルの名称や街を貫く大通りにも「オリンピア」の名前が使われている。 アンペツォ渓谷に佇むコルチナ・ダンペッツォの街は、小奇麗な高原リゾートとしてヨーロッパ中に知れ渡っている。街は谷間を流れるボイテ川 Boite に沿って、ほぼ北西から南東方向へ細長く広がり、主要な道路や通りも谷間の形容に沿って延びている。 街の中心となっている石畳の通りには教会、ホテルやレストラン、カフェやみやげ物店が軒を連ね、市街から少し離れた草原やカラ松や針葉樹林の中、あるいは結構な斜面にもアルペン・コッテージ風の住宅、プチホテルやペンションが点在している。季節が春〜夏〜秋ならば、ほとんどすべての家々の窓辺には、目にも色鮮やかなゼラニウムなど綺麗な草花が競うように飾られ、絵ハガキで良く見るアルペン風景を演出している。 当地はスキーの本場であり、街の周囲には訪れるスキーヤーの技術レベルに合った無数のゲレンデが開発されている。コルチナ・エリアだけでも標高1,000m〜2,900mの範囲のスキー・コースは100か所を越える。12のゲレンデを周遊できる「ドロミテ・スーパー・スキー」の広域エリアに至っては、ゴンドラやリストなど合計460基、総滑走距離は何と1,200kmとされる。 また、コルチナ・エリアの西隣には、荒々しいドロマイト苦灰岩の岩肌を見せる最高峰3,152mセーラ連山がある。セーラ山系は一塊の単独的な円形山系であるため、連山の麓に設けられた快適なスキーコースを滑走して大きく一周する「セーラ・ロンダ Sella-Ronda」も人気が高い。右回りと左回りの周遊コースがあり、それぞれ30本以上のコースを約40km滑走すれば、1日でスタート・ゲレンデへ戻って来ることもできる。当然、全コースのリフトやゴンドラなど、1枚の共通パスでOKである。 |
● ドロミテの「黄金盆地」 アンペツォ渓谷が少し開けた盆地状の場所に位置する標高1,200mのコルチナ・ダンペッツォは、古くからドロミテ山塊の「黄金盆地」と例えられ、町はドロミテ山塊の東部地区で最大の交通の要衝でもあり、ドロミテ・アルペン観光の重要な基点を担っている。 西側には標高3,244mトファーナ峰 Mt Tofana がどっかりと腰を据え、北東側には最高峰3,221mクリスターロ峰 Mt Cristallo を中心とした険しい連山、南東側には広大な山岳面積を占める3,205mソラピッス山系 Mt Sorapiss、そして南西側には2,709mクロダ・デ・ラーゴ Croda da Logo や2,361mチンクエ・トーリ Cinque Torri(五塔)の連山が並び、コルチナ・ダンペッツォの街を守るようにぐるりと取り囲んでいる。 地形と非の打ちどころのない自然環境、地中海と中欧との中間ボーダーという位置、交通アクセスの利便性も高く、春〜夏〜秋にはヨーロッパ中のクライマーや健康志向のツーリストが、冬季にはアスピリン・スノーに魅せられた大勢のスキーヤーが押し寄せる。このため年間を通じて、コルチナ・ダンペッツォの街からアウトドアー・ツーリストの姿が消えることはない。 ドロミテ山塊地方(東部)コルチナ・ダンペッツォ&周辺の山岳地帯 作図=Web管理者legend ej ● ファルツァレーゴ峠 2,117m/チンクエ・トーリ峰 2,361m/アヴェラウ峰2,649m コルチナ・ダンペッツォのバス・ターミナルから Dolomiti Bus の路線バスを使って、国道48号を西方へ向かう。道路は草原と針葉樹林の中を芸術的とも言える蛇行を何回も繰り返し高度を上げて行く。 トファーナ峰の南側の標高3,225mトファーナ・ディ・ロゼース峰 Tofana de Rozes 山麓を抜け、左手に「5つの塔」を意味する巨大な凹凸奇岩の標高2,361mチンクエ・トーリ峰 Cinque Torri を見て、蛇行を繰り返すと標高2,117mファルツァレーゴ峠 Passo Falzarego に到着する。コルチナ・ダンペッツォからバスで30分強の距離だが、標高差1,000mを一気に昇るのである。 広いパーキング場やレストハウスを備えたファルツァレーゴ峠(トップ写真)は分水嶺の一つで、コルチナ・ダンペッツォ側とガルデーナ峠に近いコルヴァラ Carvara in Badia 方面のSAD路線バスルートの合流点(折返し終点)でもある。より遠い目的地へはファルツァレーゴ峠で別会社の折返しの運行バスに乗り換えて向かうことになる。なお、トップ写真の左手約500mに「5つの塔」を意味する巨大な凹凸奇岩のチンクエ・トーリ峰が控える。 ハイカーに人気に高いチンクエ・トーリ峰は、国道48号のバス停(Bal de Dones)からリフトを使えば、上駅の直ぐ目の前に迫る。多くのハイカーは、チンクエ・トーリ峰から南西1kmのアヴェラウ峰 Averau 2,649m のヒュッテまでトレッキング・ルート439で往復トレッキングを行っている。 アヴェラウ峰のさらに南西には、コルチナから地方道SP638号で行ける突き上がったグセーラ峰 Gusella 2,595mがある。アクセスの利便性とその勇壮な山容から、クライマーのみならずツーリングや一般ツーリストにも人気が高い)。最も美しい山容はジアウ峠 Passo Giau 2,236m&ヒュッテ・ジアウからの眺望である(下描画)。 ポルドイ峠やガルデーナ峠と並び(後述写真&描画)、ジアウ峠はドロミテ山塊で「最も美しい展望スポット」の一つである。 ジアウ峠から眺望するグセーラ峰の雄姿/描画=Web管理者legend ej グセーラ主峰の左方: アヴェラウ峰 2,649m~クロダ・ネグラ峰 2,518m~コル・ガリーナ峰 2,330mと連山する 右方: トファーナ・ロゼース峰 3,225m~トファーナ峰 3,244mなどトファーナ連山が見える ● ピッコロ・ラガゾォーイ展望台2,750m ファルツァレーゴ峠にはクライマーのためにスタッフ常駐の「アルペン・インフォーメーション」があり、天候やトレイルなどのリアルタイムのトレッキング情報を提供している。分水嶺であるが、ファルツァレーゴ峠は広く平坦、北側には大型ロープウェイが設備され、10分ほどで標高2,750mのヒュッテ・ラガゾォーイ&展望台 Poccolo Lagazuoi へ運び上げてくれる(下地図)。 展望台では、周囲360度を見渡すことができる。東方に標高3,200m級のトファーナ峰が迫り、南東方向には2,500m級のガリーナ山系 Mt Gallina やアヴェラウ峰 Mt Avera (トップ写真)、さらに南西15kmにはドロミテ山塊地方の最高峰3,343mのマルモラーダ峰 Mt Marmolada もはっきりと見える。 展望台から北方展望では、冬季はアスピリンスノーのスキー場となるラガゾォーイ渓谷を挟んでファーネス連山がどっしりと構える(下写真)。なお、このピッコロ・ラガゾォーイ展望台周辺は、シルヴェスター・スタロン主演の1993年作品の映画・≪クリフハンガー≫の撮影地の一つでもある。 ファルツァレーゴ峠 / アヴェラウ峰 / チンクエ・トーリ峰周辺・トレッキング・ルート=作図=Web管理者legend ej ※401 402 439・・・=トレッキング・ルート番号 ラガゾォーイ展望台(標高2,750m)〜北方展望/ラガゾォーイ渓谷〜ファーネス連山/ドロミテ山塊地方 ● トファーナ峰 3,244m 人気の高いコルチナ・ダンペッツォ周辺で最も標高が高い峰ははトファーナ峰である。コルチナ・ダンペッツォの街の北側、かつて冬季オリンピックに使われたスケート競技場の直ぐ近くから出発する大型ロープウェイに乗り込み、途中標高2,500m付近の中間駅で乗り換えれば、標高3,244mトファーナ峰の直下50mの山頂駅へ一気に運び上げてくれる。 天候と高山特有の気温低下に注意すれば、スニーカーなどの軽装でも標高差2,000mを30分ほどで、誰でも容易にトファーナ峰の山頂へ登ることができる。この手軽さがドロミテ山塊の魅力であり、スイス・アルプスと違う大きな点である。その頂上は比較的広く、ここから眺める標高2,989mファーネス山系 Fanes を初め、夏でも残雪を抱く2,700m〜2,900m級の連山のむき出した地層や絶壁、その引き込まれそうな峰々の雄大さは非常に美しい。 快晴の夏の日ならば、ファルツァレーゴ峠からロープウェイでピッコロ・ラガゾォーイ展望台に昇り、岩盤状のトレッキング・トレイルを通り、美しいピラミッドのような標高3,225mトファーナ・ディ・ロゼース峰 Tofana di Rozes の頂点に立ち、直ぐ隣のトファーナ峰までトレイルするクライマー・グループが沢山やって来る。 天候も良く、樹木がまったくなく見通しは抜群、数百m先の岩場に挑戦するカラフル・ヘルメット姿のクライマーを双眼鏡で追う多くのスニーカー・ツーリスト達も目立つ。夏のトファーナ峰山頂では、目的とアクティヴの方法こそ異なるが、絶壁に挑む完全装備のクライマーと軽装のスニーカー・ツーリストが同居できる。それぞれのレベルで、それぞれの目的で、ドロミテ山塊の大自然に対面するのである。 ロープウェイの中間駅ラ・ヴァレース Ra Valles で下車することも可能である。中間駅から少し離れた見晴らしの効く場所に構える円形型のレストハウスで食事やカフェもできる。背後にそそり立つトファーナ峰、前面には見渡す限りの雄大な絶景が展開している。 レストハウスでハーブティーか生ビール、美味しいパスタやソーセージ料理を注文して、標高2,500mから眼下に広がるコルチナ・ダンペッツォの街を眺め、東方の正面に堂々と立ちはだかる3,200m級のクリスターロ連山、コルチナ・ダンペッツォの街の向こう側のソラピッス山系の圧倒される雄姿に感動すれば、ドロミテ山塊の魅力のかなりの部分を満喫したことになる。 冬季には、樹木のまったくないレストハウスの周辺は、毎年、ワールドカップの滑降競技も開催されるアスピリン・スノーの広大なゲレンデとなり、コルチナ・ダンペッツォの街まで標高差1,300m、数kmのロングラン滑降も可能だ。 当然だが、ドロミテ山塊には「峠」がたくさんある。ファルツァレーゴ峠を初め、360度の展望が効く峠ではガルデーナ峠(2,136m)⇒セーラ山系の南山腹のポルドイ峠も素晴らしい(下写真&描画)。 ガルデーナ峠〜厳しいキレット山容のシルシュピツェン連山(標高2,592m)/ドロミテ山塊地方 峠(標高2,136m): レストランFRARA(手前・丘に半分隠れている)& Hotel Cir(中腹の白壁建物) 標高2,239mのポルドイ峠〜セーラ山系・南山腹/ドロミテ山塊地方 ロープウェイ山頂駅(ヒュッテ・マリア)標高2,950m 描画=Web管理者legend ej 世界遺産/ドロミテ山塊ガルデーナ峠とサッソルンゴ峰/シウージ高原/セチューダ高原 |
ラヴァレード峠(鞍部)から望む標高2,999m トレ・チーメ峰 中央峰・「グランデ」の高さ500mの垂直壁/ドロミテ山塊地方 世界遺産/ドロミテ山塊トレ・チーメ峰とミズリーナ湖 3,000m級のソラピッス山系の山々を映す標高1,754m ミズリーナ湖/ドロミテ山塊地方 トレ・チーメ峰周辺・トレッキング・ルート/作図=legend ej ※101 102 105・・・=トレッキング・ルート番号 |
● ドロミテ山塊の有利点/「登る」より「楽々と昇る」/天候急変に最大注意! 露岩の峰々だけでなく、針葉樹林帯の静けさや草原と岩場の共存、マイナスイオンのしぶきを立てる清流、澄み切った濃厚な青空汚れのない空気・・・ ドロミテ山塊の特徴は、スイス・アルプスと異なり、標高3,000m級の険しい峰々の頂上や尾根や500mの絶壁の上端などへも、年中フル運転のロープウェイやリフトが延びていて、重装備のアルペン・クライマーでなくとも、天候と高地の気温低下に注意と対策を取れば、スニーカーなどの軽装ハイカーでも、誰でも簡単に昇ることができる点だ。 ドロミテ山塊地方では、標高3,000級の山岳であろうとも、汗流して体力と経験と技術で「登る」というよりむしろ運搬施設を効率的に使って標高差を楽々と「昇る」という感覚だ。クライマーもスニーカー・ツーリストも、分け隔てなく同じリフトやゴンドラに乗り込み高度を稼ぐ、そして、その後はそれぞれのレベルと目的でアクティヴに行動する。どう行動しようとも、ドロミテ山塊での選択権はツーリスト自身に委ねられ、それぞれの目的と期待が裏切られることは絶対にない、絶対に満足できる、と声を高めて強調したい。 天候に関する経験論だが、トレ・チーメ峰を訪れた数日後、クリスターロ峰の標高2,850m付近のキレット鞍部まで上がろうとプランしたことがある。リフトでソーリ・フォールシア展望台まで昇った後、周辺の写真撮影をして時間を使っている間、快晴の天候がたった30分間で真っ暗な空へと激変して、直径3cm大の雹(ひょう)混じりの強風ともの凄い雷雨を経験した。 真夏7月の絶好のシーズンというのに天候急変である。ゴンドラの管理者は当然昇り運行を停止と決め、私は彼らのアドバイスに従って気温の急激低下の中、急ぎ下りリフトでリオ・ゲーレのバスストップへ戻る始末である。ただ、30分ほどで雷雨は上がり、その後、西方眼下のコルチナ・ダンペッツォ方面には色鮮やかな虹が現れた。結局、ソーリ・フォールシア展望台のリフト乗り場で30分くらい辛抱していれば良かったのだが・・・ ヨーロッパの美しい風景の「定番」・初秋のサンタマッダレーナ村~冠雪のガイスラー山系 描画=Web管理者legend ej 世界遺産/ドロミテ山塊ガルデーナ峠とサッソルンゴ峰/シウージ高原/セチューダ高原 |
● ドロミテ山塊地方の針葉樹/ヨーロッパトウヒ ドロミテ山塊の森林帯を覆うのはクリスマスツリーにも使われる常緑針葉樹・ヨーロッパトウヒ(Norway Spruce/Picea Abies/マツ科唐檜)である。特に有名なのはドロミテ山塊の南西端の街トレント Trent から最高峰マルモラーダ峰の北西の村カナツェイ Canazei へ切り込むフィエーメ渓谷 Val Fiemme 産のトウヒでピアノを初めヴァイオリンやチェロなどの楽器材として使われている。 またドロミテ山塊産のトウヒは、400年の昔から、水の都ヴェネチアの街を造るのに無くてはならない基礎材料であった。浅瀬と湿地に徹底的に管理され生育した10m以上のトウヒの丸太を打ち込み、その上にヴェネチアの街を乗せる形で造成したという。現代の高層ビル建設の工事で地下岩盤層まで長い鋼管コンクリート杭(パイル)を打ち込み、耐震構造を確保するのと同様な考えである。また中世ヴェネチアの舟のマストは、全て強靭性に富んだドロミテ山塊のトウヒが使われたとされる。 |